妻……。
また、そう言った。
「紗良、わたしは君の虜だ……」
「あ、あの、紅さん。じゃ、じゃあ、今までわたしにキスしたのって……」
「愛おしい妻に口づけをして何がいけないのかな?」
愛おしい……って……。
「あの、でもでも、わたし、まだあの時は紅さんのこと何も知らなかったしっ!!」
「わたしの香りを嗅ぐことができる。ただそれだけで十分だとは思わない?」
「わたしは、好意をもった女性にしかこういうことはしないよ?」
そっと……わたしの耳元に、囁(ササヤ)かれた……。
「……てっきり、霊体に悩まされているわたしを慰(ナグサ)めるためのものかとばかり思ってた……」
「君は知らないだろう? 無自覚なのもまた可愛らしいとは思うが、こうして抱きつかれると、わたしの心臓が大きく高鳴っていることを……」



