触れ合っていたあたたかい感触は消え、体には恐怖という名の寒気が襲ってくる。
「あ……イヤ……」
怖い……。
恐怖に怯えたわたしは離された体へとまた手を伸ばす。
だけど、紅さんはわたしを抱きしめてはくれなかった。
その代わりに夏の夜の空気にさらされていたわたしの肩に、紅さんが着ていた薄手の中袖のシャツを被せられた。
紅さんと同じ、薔薇の匂い。
それがわたしの鼻孔(ビコウ)をくすぐる。
「紗良ちゃん、少しだけ待っていてね」
わたしの額にひとつ唇を落とすと、紅さんは立ち上がり、わたしから離れた。
「返せ……それは俺の魂だ……かえせぇぇぇ!!」
わたしの前に立つ紅さんに激怒した男の人が大声を出すと、ゆらりと影が揺れる。
影がブレたと思ったら、シルエットから茶褐色の鈍い光が見えた。
「あの……光は……?」
「紗良ちゃんも見えるんだね。アレが霊気だよ。悪霊の怨念が具現化したものだ」