そこは、好きな人が触れた場所……。


紅さんとキスをした唇……。





「っ……」


いやだ。


そこはイヤ。


だって…………好きな人としか……イヤだ。



顔を左右に何回も何回も振って拒絶する。

なのに、舌は引込めてくれない。


「イヤ。やっ!!」


拒絶する心が、喉の奥から嗚咽となって込み上げてくる。


わたしの気持ちとは反対に、男の人は、とうとうわたしの唇を塞いだ。



「ふ……っ」


紅さん……紅さん……。



目の裏に浮かぶのは、いつだってわたしを受け入れてくれた優しい微笑み。




男の人は唇を奪いながら、わたしの両足の間に体を挟ませてくる。


体も……。


心も……。


霊体に乗っ取られたこの人に…………全部を奪われるんだ……。



覚悟して、強く目をつむると、涙がひと筋、耳へと向かって流れる。


堪えきれない悲しみと苦しみがわたしの心を占領する。