顔は……とても熱いから、たぶん真っ赤になっていると思う。
ひどい。
紅さんはとてもひどい。
目を細めて優しく微笑まれると、今日でさようならをするっていうわたしの決意が薄れてしまう。
もっと……もっと、傍にいたいと思ってしまう。
ダメなのに……。
それじゃあ、ダメ……なんだよ。
わたしは自分に言い聞かせて、への字になりそうな口角をなんとか上げると、言葉をそっと吐く。
「ありがとうございます」
出てくる涙をひっこめて笑い返した。
もう、ご飯は作れないけど、紅さんならわたしがいなくても、素敵なお嫁さんが傍に寄り添ってくれるはずだから……大丈夫だよ。
そういう意味を込めて、崩れそうになる表情を堪(コラ)えて笑顔をつくった。
――……。
――――……。
喫茶店を出て、お腹を満たしたわたしは紅さんと一緒に、大きくて真っ黒いビルにある、映画館に入った。



