そんなまどろっこしいわたしを、紅さんは焦らすことなくジッと待っていてくれる。
沈黙が続くのに居心地は悪くない。
穏やかで、あたたかい時間。
嬉しくって、ついつい口元をほころばせてしまう。
自然に笑みがこぼれた。
「紗良ちゃんは美しいね」
ここは紅さんの家じゃない。
それなのに、外でもわたしを褒めるのは、とても無自覚な人なんじゃないかって思う。
恥ずかしくなって、肩を縮めてメニューで顔を隠す。
だけど、やっぱり目の前の紅さんが気になっちゃって、メニュー越しにチラリと覗く……。
そうしたら……。
案の定、わたしの視線に気づいた紅さんは微笑む。
……恥ずかしい。
でも、心地いい。
わたしは慌ててメニューに食いつき、ようやくサンドイッチとコーヒーをお願いすることにした。
今までなら口にすることができなかった食べもの。



