わたしだったら、こんなに面倒くさい奴の相手なんかしたくないって思う。
それなのに、紅さんは、そんなわたしの面倒を見てくれる。
――――ありがとうございます。
わたしは心の中でお礼を言って、首の根元を支えてくれる指に従って口を開けた。
「…………ん」
紅さんの柔らかい唇がわたしの口と重なると、ゆっくりと流れ込んでくるのは、生ぬるい甘い味の水。
喉の奥に水が行き届いたのがわかった紅さんは、わたしと離れていく……。
コクン。
わたしは喉を上下に動かし、そっと胃の中に送り込む。
「どう? 紗良ちゃんの好みの味かな?」
昨日もこうやって飲ませてくれたけど、やっぱり何度やってもらっても口移しには慣れない。
だけど、紅さんの好意を、『ただ恥ずかしいから』っていうだけで言葉を詰まらせるのは失礼だ。



