「ごめんね、待たせてしまったね」
紅さんはそう言うと、慌てて体を起こしたわたしの隣に跪(ヒザマズ)いた。
恥ずかしい。
ベッドの残り香を嗅ぐなんて、わたしって、ものすごく変態だ。
「紗良ちゃん?」
いけないことをしていたようで、なんだか真っ直ぐ紅さんの顔を見ることが出来ない。
俯(ウツム)いてシーツの端っこを見ていると、紅さんがわたしの表情を窺(ウカガ)ってくる。
…………なんとか……。
……なんとかしなきゃ。
紅さんに怪しまれないようにしなきゃ。
わたしは勢いよく頭を振って何でもないと意思表示する。
紅さんはそんなわたしを見て、クスリとひとつ笑った後、続きを話しはじめる。
「まさか、こんなところでわたしの腕が試されるとは思わなかった……」
そう言って、微笑むと、わたしの目の前にグラスを掲げた。
紅さんが手にしていたのは……濁った白い水が入ったグラス。



