昨日までは見ず知らずの人だったのに、少し優しくしてくれただけで、もう紅さんと離れるのがイヤだと思っている。
わたしの身の上をよく知ってくれている倉橋(クラハシ)さんでも遠慮してしまって、こうはならなかったのに……。
紅さんがとても綺麗だからだろうか。
だからわたしはこんなに、紅さんに執着してしまうのだろうか。
でも…………。
薔薇の残り香を嗅いでいると、前からずっとこの匂いを待っていたような、どこか懐かしい、そんな気さえもしてくる。
わたしはいったい、どうしてしまったんだろう。
それに……この匂いがわたしの頭をボーッとさせる。
気持ちよくて……お腹の奥に、熱が宿っていく……。
「ん…………」
頬をベッドのシーツに擦り合わせて紅さんの香りを嗅ぐと、またヘンな声が出てしまう。
……ガチャリ。
紅さんの薔薇の匂いに憑りつかれたように呼吸していると、突然ドアが開く音がして、わたしは慌ててベッドにうずめていた顔を引きはがした。



