「あ、菜々子ちゃん。ちょっと相談があるんだけど、いいかしら?」

 そろそろ帰ろうかとした時、おばさんが遠慮がちに言った。何ですかと尋ねると、私にはある意味嬉しいことを提案される。
 それは、来月からいなくなってしまうバイトの子の代わりになってくれないかということだった。アパート生活にも慣れてきたし、そろそろバイトでも始めようかと考えていたのでちょうどいい。何より真己と会える日が増えるのだ。せっかく再会したのに、なかなか会えずに疎遠になってしまったなんて結果は嫌。
 真己がおばさんに抗議をしているようだったが、私は二つ返事でそれを承諾した。
 それから週四日のバイト、加えて大学のある日の夜ご飯をご馳走になることになり、結局ほぼ毎日顔を合わせることになった。昔の恩返しだと言っていたけど、私はおばさんが両親に食費を渡していたのを知っている。うちの親も親で、それを真己の貯金としていたけど。最後はどっちつかずで両親が預かっていたと思ったが、親同士のことなのでよくわからない。

 話を戻そう。バイトがある日と夕飯をご馳走になる日は、必ず部屋まで送ってくれた。ご飯を頂く日に仕事が抜けられない状態だと、私はしばらく待つことになる。一度レポートを書くために真己の部屋を借りたことがあったのだが、それがきっかけとなり段々と私の勉強道具が真己の机を占領していった。
 近くだから大丈夫だと言っても、真己は頑として譲らなかった。確かに過去、目の前でナンパ事件があったので信憑性には欠ける。