だけど、ついて行けないほど速くない。先を歩く今泉君が雑踏をかき分けてくれるから、むしろ歩きやすい。



逆らっていた人波に、いつの間にか紛れ込んでいる。さっきよりも速度を落として、前を歩いていた今泉君が隣にいて。
まだ、手は繋がったまま。



歩くことだけに集中していた意識が、今度は繋いだ手の方へと向かってく。
想像していた通りの手の感触。
硬くて骨張っていて大きくて、温かくて力強い。



そろそろ何か話してもいい頃なのに、今泉君は黙って歩いてく。横目で窺おうとしても表情は読み取れないし、しっくりとこなくて落ち着かない気持ち。



もしかしたら、手を繋いでいることを忘れてる?



そんなわけ、ないか。
でも、このままでいるのも正直なところ辛い。



「どこ行くの?」



考えがまとまらないうちに、先に言葉が零れ出てしまった。
今泉君が振り返る。
ようやく何かを思い出したような顔をして。



「駐車場、行ってみよう」



と言っただけで前を向き、再び歩き出す。
手を繋いだまま。