「え……、うん、一応決めてるけど」

「そう、この辺り?」



私の答えに今泉君の表情が揺らぐことはない。無表情とまでは言わないけど、なんてことないと思わせるようで少しだけ複雑。



でも、これはチャンスかも。
今まで聞けなかった今泉君の志望校を聞くことのできる最大のチャンス。



「うん、K大……、今泉君は?」

「K大かあ……、だったら近いかも。俺はH大」



ちょっとだけ、今泉君の口角が上を向く。



あれ? 笑った?



と思ったのだけど、すぐに口を結んで下を向いてしまう。



でも、いいんだ。
今泉君の志望校が聞けたから。



「よかった……H大なら、自宅から通えるね」



ぽろっと零れてしまった本音に慌てて口を噤んだ。『よかった』なんて、自分から声に出して言うべき言葉じゃない。
心の中に留めておかなければ。



「うん、自宅から通えるところが第一条件だったから」



柔らかな声が胸に沁みて、むず痒くなる。