逆に自転車を遠ざけて、今泉君が私と自転車の間へと割り込んできた。フェンスの向こうの線路へと視線を移して、何を見ているのだろう。
「芳田さん、僕と付き合ってくれない?」
何の前振りもない唐突な言葉に、頭の中が真っ白になった。
しばらくして、ふわふわと浮かんできたのは疑問ばかり。
三年生になって間もないこんな時期に?
じゃなくて、まず聞くことがない?
彼氏居る? とか、好きな人居る? とか。
私って、彼氏や好きな人なんて居ないと思われてるんだろうか。ちょっと落ち込みそうになるのは、半分は現実逃避してるから。
何と返事しようかと迷っているうちに、今泉君が私の顔を覗き込む。私が断るなんて微塵も思っていないような、余裕のある笑みを湛えて。
いや、違う。
この威圧感さえ感じさせる笑顔は、勝利を確信しているからかも。
それとも、私が断るのを拒んでいるのかもしれない。
「いいかな?」
「は、はい……」
「よし、決まり。よろしくね」
戸惑いつつ頷いた私の言葉は、今泉君の声に掻き消された。満足げな笑顔に、胸が押し潰されそうにだった。

