「ねぇ、カズくん」


「ん?」




帰りの車の中で、未央は俺の方を向いていた。

にこにこと可愛い顔をして。

帰るの止めて、手を出したくなるのを必死に抑えていた。




「アミちゃん、あんなに無防備で大丈夫かな」


「あー、アレな。俺、もっと早くデコピンしたかったわ」


「アミちゃんのおでこ、真っ赤だったよ?」


「いいンだよ、あれくらい。アイツは、それでもわかんねぇンだから」




そっか、と言って未央は窓の外を見た。

窓の外は、夏の終わりの匂いがしているに違いない。




「カズくんのこと、信じてるけど。ちょっと妬けたな」




なんてね、と笑う未央の気配に、俺は車のハザードを付けてすぐに道路脇に寄せた。

驚いたようにこちらを見た未央を、構わず腕の中に抱き締めた。




こうして抱き締められる距離に居ることを。

目の前で『大丈夫』と伝えて、キスが出来ることを。


とても幸せだと想った。




「アミちゃんとタク。ちゃんとお互いのことが分かるといいね」


「そうだな。拓海に男らしいところ、出してもらうしかねぇな」




そんなことを言って、未央と二人で笑っていた。



お互いのことを、ちゃんと伝えることを。

あの二人が一番いいカタチを見つけられることを祈っていた。




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