「昨日はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


「答えになってない」


「お詫びもせずにお暇するのは失礼かと思いましたが、良く眠っていらっしゃったので」


「起きたら送ってやる、と言ったはずだが」


「自分で帰ることが出来ると判断したまでです」




ガタンッ、といつもより大きな音を立てて立ち上がった大崎さんを、とても冷静な気持ちで見つめていた。

昨日まではその行動に怯えたり動揺したりすることが出来たはずなのに。

今は何の感情も沸いてこない。

自分の中の何かが欠落してしまったかのように、私はただその人を見つめていた。


近付いてきた大崎さんは強い力で私の手を掴んで引き寄せようとしたが、私はその手を振り払った。

完全なる拒絶を示す私を見て、一層苛立ちを露わにした大崎さんは眉間に皴を寄せていた。




感情的になった大崎さんを見れば何か感じるのかな、なんて想っていたけれど。

結局私の感情はこんなことくらいで動いてくれないんだと。

ただただ実感して笑った。


その顔は、非道く痛々しく、乾いた笑いだったに違いなかった。




「・・・帰れ。お前にさせる仕事なんてない」


「あります。尾上さんにアポイントを取ってあるんです。絶対にお詫びに伺うと決めたからには、行かせていただきます」


「ちゃんと仕事出来るんだろうな?」


「出来ますよ。変なこと言わないでください。仕事を取り上げられた方が、辛いですから」




『そうか』とだけ言って、大崎さんは自分のデスクに戻って行く姿を目で追いながら、その後ろの柱にかかっている時計に視線をずらす。

時刻は五時半を指していた。

始発も動いていない時間に何をしているんだろう、と少しだけ冷静な気持ちになったが、そのまま自分のパソコンンへと視線を向けた。