「おはよう」


「・・・おはよう、ございます」




誰もいないであろう時間に会社に出勤してきたというのに。

どうしてこの人はこんな時間にデスクに座っているのだろう。


いや。

理由なんて明白過ぎて、今更確認する気にもならない。

でも、今一番会いたくない人であり、今一番感謝をしなくてはいけない人だということだけは理解している。


頭では理解していても、私の感情がついてきてくれないのも事実だった。

この人と向き合うことは昨日の自分の行動を肯定する事であり。

それは同時に、拓海を裏切る行為であったと認めるに等しいことだった。



自分のデスクに座ってパソコンを立ち上げる間、私達は目を合わせることすらしなかった。

ただ自分の横顔に注がれる、痛いほどの視線を無視し続けることしか出来なかった。




「なんで勝手に出て行った」




落とされた言葉には疑問の色など無く。

其処にあったのは苛立った『詰問』の響きだった。


そもそも私は大崎さんにとって特別な存在になった訳でもなく、そんな詰問を受ける理由など一つも見つからなかった。

それでもこの人は、私に『問いかけた』訳ではなく『問い詰めて』いるのだ。

その苛立った感情を抑えなくては、という義務感など私にはなかった。

向けられた言葉に対して、何の感情も込めないまま声の主へと目線を向けた。



目が合ったその人は、いつも通り完璧な姿をしていた。