「あ、あのっ!!」


「デカい声出すな。近所迷惑だ」


「だって、待って下さい!止まって、大崎さ――――」

「もう待たないと言ったはずだ」




私の手を掴むその力は、決して私を離してくれそうにない強さだ。

けれど、この手に引かれるまま進む訳にはいかない。

これ以上この人のプライベートスペースに入り込んでしまったら、私は絶対に後悔をする。

何一つ解決なんてしていない状態で、大崎さんの気持ちに応えることなんて出来る訳がないのに。

何より、どんなことがあっても拓海のことを大切に想う気持ちに変わりはない私は、こんな裏切りみたいな行為に後ろめたさ以外の感情が湧いて来なかった。



東京で見たことを大崎さんの胸に縋りながら何とか伝えたあと、私達は車で自宅へと向かった。

空港からの車内で、私たちは一言も言葉を発しなかった。

ただ流れる音楽が耳をすり抜けていき、車のエンジン音とすれ違う車の音ばかりが響いていた。

ぼんやりと外の景色を眺めていたはずなのに、私はいつの間にかうたた寝をしていたようで。

大崎さんに揺り起された時には、この人のマンションの駐車場に着いていた。


寝ぼけた目で辺りを見回し状況を理解しようとしているうちに、助手席のドアが開き腕を引かれていた。



わかってる。

マンションの駐車場でこんな風に言い合いをするのが得策でないことくらい。

遅い時間で人気がないにしろ、人目についた時は面倒になるのが目に見えていた。

それでも、この人の部屋に入ってはいけないことの方が痛いくらいにわかっていた。