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「は?どういうことだよ」


『それはこっちの台詞だ。もっと早く来ると思ってたから、心配してたんだぞ』


「いや、お前ずっと待ってたのか?」


『は?当たり前だろ?お前も未央も連絡つかないから、待ってるしかないじゃねぇか』


「そうじゃねぇよ。誰か来たんじゃねぇのか、って言ってンだよ」


『ん?あぁ、会社の上司と知り合いの若女将が諸事情で来てたけどな。でも、何でそんなこと知ってンだ?』




電話が繋がった第一声が『遅い!』という、無理に怒っているフリをした声だった。

俺は『悪ぃ』と思わず謝ってしまったが、タクの反応は明らかに俺を待っている反応だった。



どうしてだ?

アミがそっちに行ったなら、タクは間違いなく『お前なぁ』という呆れたような、それでいて嬉しさを含んだ声で俺の電話に出るはずだ。

電話越しのタクはアミに会った素振りなんて無く、いつまで経っても俺と未央が来ないことを心配している兄貴の声をしている。


寂しくなった一人の男の声をしていない。


妙な胸騒ぎがして、俺は携帯を強く握り直す。

電話越しに聞こえる声は絶えず俺を心配している。




拓海。

お前、俺の心配をしている場合じゃないンじゃねぇの?

お前、何でアミに会ってねぇンだよ?




胸騒ぎは確信に変わり、状況を把握しないことにはタクを責めることも出来ない。

嫌な予感しかしない状態のまま、俺はイベント会場から駐車場へと足を進めた。