「お、さきさん・・・離して・・・」


「離さねぇよ。どんだけ我慢してやったと想ってるんだ」


「でも、大崎さんの彼女が・・・」


「いねぇよ、そんなもん」




涙が止まらない。

上手く言葉にならない。


あのハンカチにアイロンをかけてくれた人は、きっと私と同じ気持ちになってしまうんじゃないかと想って、余計に苦しくなった。

拙い言葉で何とかそのことを伝えると、とても優しい手つきで私を宥めてくれた。

そんなこと気にしなくてもいい、と言いながら。




「そんなのは好きでやってんだ。俺は頼んじゃいない。それに、それくらいのこと自分で出来る」


「でも・・・」


「亜未が俺を選ぶなら、そんなの全部捨ててやる」




発言は最低なのに、この人の中の一番である私には最高に甘い言葉で。

こうして誰かよりも優位に立つことが、女としての安心を得ることだと、大崎さんは知っている。

誰かと比べて、それでも私を優先してくれるということが、女としてどれだけ認められた証なのかということを。

この人は知っているんだ。




こんなことをされてしまうと、縋る以外の選択肢を選べなくて。

目の前のスーツに両手でしがみ付いてしまった。

そんな私の行動を敏感に感じ取った大崎さんは小さく笑い、私の頭に優しくキスを落とす。



顎を掴まれ顔を上に向かされる。

涙でボロボロになった私の顔を見つめるその表情は、今までに見たことがないくらい甘く優しい表情だった。

唇に落とされそうになったキスを咄嗟によけると不満そうな声が返ってきたが、いくらなんでもそれに応じることは憚られた。





「これ以上待つつもりはないからな。次は無理矢理にでもするぞ」





そう言って瞼に落とされたキスは、涙を掬うような優しいキスだった。