言われた言葉を理解することが出来ずに、ただただ涙を流す私。

右手を掴んでいた大崎さんの手は、そのまま強く自分の方へと私の手を引きつけた。

反動で大崎さんの胸の中へと飛び込む形になってしまったけれど、逃げることを許さないとばかりに私を抱き締める腕の強さに、また涙が零れた。




――――――拓海を裏切りたくなんてないのに――――――




裏切りたくなんて、ない。

裏切られたなんて想いたく、ない。



でも、今日見たあの光景は、紛れもなく事実なんだ。

私を抱き締める腕の強さが、拓海ではない人だと教えてくれている。

吸い込むたびに香る柑橘系ではない大人の香りが、大崎さんであると証明している。



こんな風に大崎さんに縋ることは、許されることではないと頭では理解していても。

こんなにも甘やかしてくれるこの腕を振りほどける程、私は強くなんてなかった。




拓海。

信じてる。

でも、信じきれない時はどうすればいいのか、私にはわからないよ。

ただ好きなだけでは埋められない現実的な距離感が。

今の私には遠すぎる。



カズ。

今の私は、二人を裏切ってることになるのかな。

でも、辛すぎて。

罪悪感よりも、助けて欲しい気持ちしかないんだよ。




カズ以外の人に縋ることで、救われることがあるなんて初めて知った。

自分を大切にしてくれる人に甘えることの優越感が、今の私を救ってくれることを。

女の浅ましさを知っているこの人が教えてくれた。