こんな日に限って、どうして天気が良くて雲一つないような空なんだろう、と。

空が高くなった秋の空を思い出しながら、とぼとぼと飛行機から空港のターミナルを目指して歩いていた。




拓海に逢うことが出来なかった。

違う。

逢わずに私は此処に帰って来たんだ。



何のために、自分の現場をカズと時雨さんに任せて。

何のために、大崎さんに空港まで送ってもらって。

何のために飛行機に飛び乗って東京まで行ったのだろう。



タクに内緒で逢いに行って、喜んでもらうはずだったのに。

驚いたタクを見て笑ってやるつもりで。

でも、顔を見たら私の方が絶対先に泣いてしまうだろうな、なんて。

そんなことを考えながらタクの家まで会いに行ったはずだった。






タクのいるマンションに着いた時、タクは女の人の肩を抱いてオートロックのドアを入って行った。

その人は上質そうな着物を身に付けた、綺麗にまとめた夜会巻きの髪の毛と華奢なうなじが素敵な人。

抱き合うように重なったその影から、逃げるようにしてタクの住むマンションの前から逃げ出したのだ。






信じてる。

タクは私のことを裏切ったりしない、と。

『三年後』の約束をしたタクが、そんなに簡単に心変わりするわけないって分かってる。

一人の人を好きになって。

その人のことを信じられないくらい大切にする人だって、私が一番知っている。



逃げたのは、そんな小さな理由じゃない。

逃げ出したのは、拓海がそんな人だと知っていながら、ほんの少しでも疑ってしまった自分自身に対してだ。




拓海を信じきれないくらい心が弱くなってしまった自分自身から、私は逃げ出したんだ。