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「大崎さんっ!!!」
「藤澤君」




パタンと閉まったドアの近くから、時雨さんの子供が俺達の方へ歩いて来た。

我が子の頭を撫でながら抱きあげて椅子に座らせる時雨さん。

以前はアミに良く似た雰囲気を持っていたこの人だが、今は未央と同じ『母親』の顔をしている。

大人しく椅子に座る望(ノゾム)君を見て、不安そうなその子の頭を撫でながら微笑みかけた。




「藤澤君は、お父さんの顔をしてるね」


「え?」


「やっぱり自分の子供がいると、優しくも心配性にもなるものなんだね」




時雨さんは我が子の隣に腰掛け、今日の台本に目を通しながら凄いスピードでチェックをしていく。

現場を離れたとはいえ、旦那さんから現場の話を聞いて相談に乗っているらしい彼女は、いまだ現役のアシスタントとして有能だと思い知らされた。


俺は向かいに腰掛け、注意事項の書かれた水色の付箋を説明しながら時雨さんに渡していく。

本番まであと三十分。

こんな土壇場の打ち合わせでこれだけ落ち着いていられる人を、俺は他に知らない。




「流れはこれで以上です」


「了解しました。何かあれば藤澤君、フォローお願いね」


「もちろんです。ご無理を言って、申し訳ありません」


「いいえ。尾上さんの依頼だし、他でもないアミちゃんのためだから」




大人しくしている望君に簡単なパズルを渡すと、机の上で大人しくそのパズルを始めていた。

俺に向き直った時雨さんは仕事の顔で。

少し真剣な目線で直視されると、未だに緊張を与えられているのだと感じた。