「おい」




無視だ、無視。




「おい、コラ」




聞こえないよ。




「おい、コラ、ボケ」




ヤバイ。

このままじゃカズがキレる。

でも、無視って決めたんだ!!




「おい、コラッ!逃げんじゃねぇよ、このバカッ!!!」




従業員通路の控室まで続く通りは、狭く人通りが少ない。

よって、私とカズ以外の人がいない。

それを知ってか、カズの口調は最低だ。


そして、それを絶対無視すると決めた私は、その細い通路に差し掛かった瞬間に走り出した。

狭い道を走るのは私の特技みたいなもんだ。



ドタバタと追いかけっこをして、MC控室に辿り着く。

カズが来る前に鍵を閉めないと、とんでもないお怒りを目の前で受け取ることになるので、私は必死だった。



扉に手をかけて、そのドアを押す。




ん?




「ふざけんなっっ!!!そこで待ってろッつッてんだろうが、このボケェッッッ!!」




このドアノブ。


引くのかよっ!!!!!




扉を引いて急いで閉めようとすると、滑り込むようにカズの足がドアの隙間に入って来た。

ガンッ!という大きな音と『―――ッてぇ・・・』というカズの小さな声を聞いて、思わずドアから手を放していた。



それと同時にカズが部屋の中へ入って来て、ドアを閉めて鍵を閉めた。




「おい、コラ」


「・・・」


「いてぇじゃねぇか、バカ」


「・・・ごめん。足、大丈夫?」


「大したことねぇよ」