そんなの自分が一番わかってる!と突っ込みたいが、現場が始まるまであと一時間半しかないので、そんな無駄口を叩いている余裕はない。

スケジュールに余裕のある桂木君が、現場まで送ってくれるということで車の用意をしてくれていた。




「高田」


「大崎さん、すいませんっ!私、久しぶりに余裕ないみたいで――――」
「お前、飛行機は?」




大崎さんの言葉に、バタバタしていた私の手が止まる。

考えてしまえば、現場なんてほったらかしにして飛んで行ってしまいそうになるから、考えないようにしてたのに。




「大崎さん、意地悪ですね」




苦笑いを浮かべながら大崎さんの方を見ると、やけに心配そうな顔をしていた。

それは、現場の心配をしている顔ではなくて。

私『個人』を心配してくれているのだ、とわかった。




「任せろ、って言ったじゃねぇか」


「だって、尾上さんの現場なんですもん。穴埋めくらい、自分でしたいじゃないですか」


「そんなの、カズと俺たちでするって。そう言ったじゃねぇか」


「嫌です。尾上さんには、ちゃんと認めて欲しいんです」


「強情だな」


「すみません」




そう言って、オフィスを出発する。

時間は八時半。

イベント開始は十時なので、何とか間に合うだろう。




「ごめんね、桂木君」


「いいですよ。俺、今日フリーなんで」


「ありがと」


「それより、いいんですか?今日、久しぶりの振休じゃないですか」


「いいんだよ、仕事第一。さ、イベント会場までお願い」


「了解しましたー!」