桃花side*

「あんたなんかいらない!出て行きなさい!」

私は母にそう言われたとき、迷った。

母がこんなに私のことを嫌っていたなんて。思いもしなかった。

「ねえ・・・なんでっ・・お母さん・・ねえ・・」

私は涙を流しながら母に手を伸ばす。

「触らないで!早くどっかに行きなさい!」

「っ・・・・わかった・・」

そう、私が迷ったのは出て行くか出て行かないかの決断。

このまま出て行ったら、行くあてもない。

出て行かなくても、ご飯もくれないだろう。

少ない貯金でどこにも行けない。

私は床に落ちた自分のスマホに手をかける。

無意識のうちに電話帳から、ある人の名前を探し、通話ボタンを押した。

『もしもし?』

「あ、亜子。今日、泊まりに行ってもいい?」

涙を堪えながら、昔からの親友の、高崎亜子(タカサキアコ)に話しかける。

『え。いいけど。何かあったの?』

「それは行ってから話す。今から行くね」

『了解ー!』

亜子が了解したのを確認し、通話終了ボタンを押す。

私は、着替え、私物をすべて大きな旅行バック2つに詰めた。

もともと私物が少ない私は2つで収まった。

静かに階段を降りた。

ダイニングを覗くと母が放心状態で座っていた。私には気づいていない。

私はテーブルにあった紙を持ち、鉛筆でこう書いた。

『さようなら。桃花より。』

ただそれだけを書いて、サンダルを履き、スニーカーとブーツをバックの隙間に詰める。

そして、玄関のカラーボックスに財布から取り出した、この家の、合鍵を置く。

そして、外へ出た。

高校生活初めての夏休み。外はギラギラと照らされていた。

坂を上って下りて、歩いていると。着信音が耳に入ってきた。

私はポケットに入れていたスマホを手にとった。そこには『お父さん』と書かれていた。

私はおそるおそる通話ボタンをおし、耳にスマホを当てる。

『おい!桃花!これはどういうことなんだ!』

「・・・・」

私はなんのことを行っているかわからず黙ってしまう。

『さようならってなんだ!なんで家を出たんだ!』

「なんで・・・お父さんが・・知ってるの?」

『今帰ってきたらお母さんの様子が変だったから、ダイニングを見たら、桃花の置き手紙があったんだ。説明しろ!』