神なるものに恐れなし。


(あいつが…あの車に。)

ぞわっとした。体に一気に鳥肌が立って、知らずうちに走り出していた。

「!!ナギー!?おい、危ないって!待てよっ!ナギーー…っ。」

車に近寄って、中に人がいることを確認する。やっぱり二人の影が見えた。

「美命ーーー!!!!!」

俺が駆け寄った時、既にワゴン車は火に覆われていた。火に触れないように慎重に耳を澄ました。

(返事をしろ。頼む…っ!美命っ!)

「美命!!寿々彦!!
………。」

「…な、なぎ、那岐和く…っ!」

(聞こえた!)

覚悟を決めるしかない!家を憎んでいても、美命は…。

「美命、聞こえるよな?俺だ、那岐和だ。」

車の中から泣く声が聞こえた。

「今から護身をする。唱えるから、お前も合掌くらいはしとけ!!」

「う、うん!」

「寿々彦はこの空間をもっと狭めて、力を外徒と車に集中するんだ。」

「わかりました。」

俺は目をつむり、片手を胸の前へ置き、精神を集中させた。そして、余計な雑音を全て自分の理の外へ置いた。

(答えてくれよ、イザナギ。)

「…我は汝、汝は我。応えよ、伊邪那岐大神。力を受け継ぐ者ここに在り。…ーーー。」

最後の御神文を唱え、俺はそっと車に手を添えた。

「あっっ~~~つ!!!」

高温に熱くなった車体に必死で耐えて、じっと力を込めた。手の平がじわじわと焼けるのがわかった。

(子供の頃みたいにはいかないか。)

だが、それ以外は完璧なみたいだ。寿々彦の力によって車と外徒に溜められた空間は時間と共に青く歪んでいった。その空間に影響された俺の継神力の効果は倍増し、車の火は徐々に消え、外徒の抵抗は弱まっていった。

「…ふぅ、後は。」

すっかり以前の状態に戻った車体のドアを開き、俺は対面した。

「大丈夫か?美命!」

10年ぶりに見た美命の顔は、笑っていた。

「な、那岐和ぉぉ~っ。」

「な、泣きながら、笑ってんなよな。」

「だって…。」

「寿々彦も無事で良かった。」

「那岐和さんも、よくい・ま・ま・でご無事で。」

寿々彦は顔色は良くなかったが、は人をイラだたせる能力は衰えてないようだった。

「あぁ、おかげさまで。それより早く清めてやれよ。あれ。」

俺は後方でうずくまっている子供、外徒を指差した。

「わかってますよ。今回は西洋の外徒が襲撃してきたみたいですね。」

そう言いながら、寿々彦は外徒に近寄った。

「ぐぐ、ぐあぁっ!うわぁっー!」

びくっと肩を震わせて、美命は後ずさりした。

「もう大丈夫だ。こいつは俺たちには何もできやしないんだから。」

「わかってるけど…。」

「今回は本当に不意打ちなんですよ。僕は戦闘向きの力じゃないし。那岐和さんにはほんと感謝してます。」

「陣介と薫子は?」

「後で説明いたしますよ。本家でね。」

「………。」

「西洋の外徒君。」

「…ぅぅうっ。」

「汝の不浄を清めよ。汝の主神とする神の名を答えよ。」

寿々彦がそう唱えると、外徒は子供の姿と元である姿を繰り返しうつした。

「ぼ…僕の名前ワ、ジャックランタン。アイルランドの主神ダグザを最高神トする…。」

寿々彦の浄化が済んだ外徒からは、先ほどのような殺気も悪質な雰囲気も消えていた。すごく穏やかな表情をしている。

「アイルランド?イギリスか。」

「そうですね。ジャックランタン、あなたの主神ダグザは何を目的として君を送ってきたんですか?」

外徒はにやっと笑い、俺と美命を見た。
俺は自然と美命を自分の近くへ引き寄せた。

「ぼクの目的ハ、ソコの2人さ。ダグザ様に2人を連レテこいト命令されタ。」

「やはりイギリスは日本を狙っているのですね。」

「当たり前じゃなイか。ココはオーストラリアと同ジくどこの国にも侵攻さレテいないんダヨ?中国や南アフリカの奴らだって狙ウダろうサ。」

「そうですか。」

「特にそこノお嬢さんハ、力を感じル。」

「わ、私?」

「家を出てしまった那岐和さんとは違い、美命さまはずっと本家の御守の創神の近くにおりますからね。」

「とにかく、目的は聞いたんだ。早く成界させてやれよ。」

「言われなくとも。」

寿々彦は外徒の額に手を置き、念じた。すると、白く光を放ちながら外徒の体は塵のように空へ舞い上がっていった。

「さて、空間の御神文も解きますか。」

「あぁ、頼む。俺の友人も困惑してるからな。」

俺が見るからに戸惑っている陵介を指さすと、寿々彦は驚愕の表情を見せた。

「…なんで、普通の人間がこの空間を実感してるんですか?」

「俺と同じものを見たからだろ。俺の発する継神力が陵介の五感に影響をきたしただけだ。…記憶は消しておくよ。」

「…ええ、頼みますよ。」

寿々彦は目をつぶり、印を解いた。

「解!」