「いやぁ…何とも言えないですね」
「俺には耐えられん…」
顔を真っ赤にして目を閉じてしまった斎藤さんに私も乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
今、私と斎藤さんがいるのは出会い茶屋というところで平成の世でいうラブホである。
あってもなくても変わらなさそうな襖の向こう側からは女の人のあられもない声がばっちり聞こえてきてとってもお取込み中なご様子。
で、どうしてそんなところに私と斎藤さんがいるかというと。
「任務ですから、仕方ないですよ。諦めて見張りしてましょう」
「何故お前のほうが余裕であるのか不思議でならん。任務である以上最善を尽くそうとは思うがこうした場所でお前は何も思うところはないのか?」
「いや、すごく恥ずかしいですよ。ただ顔には出さないようにがんばっているんですよ。それに島原にいたころは隣から声が聞こえてくるなんてこと珍しくもなかったですし」
「…そうか、島原でのことがあったな。しかしその時といい今回といいお前という女がいたからこそ為せた任務だ。副長も感謝していたぞ」
「そんな…私にできることがあるならやらせてほしいです。私は前線に出て戦うとなったらきっと役には立ちませんから、こういった任務で頑張りたいんです」
そういって薄く開けられた窓をのぞいた。見えるのは枡屋。主人は喜右衛門、本名は古高俊太郎。私が島原で得た情報をもとに枡屋を調べた結果一番見張りやすい場所がこの出会い茶屋だったというわけだ。