ぐっすり眠っている見張り番の人の横を通って外に出た。いつ以来だろう…一人で勝手に外に出るのは。
裏道を歩いて島原大門までくると自分の心臓がどきどきとしていることに気づいた。
門をくぐってその心音に合わせるように少しずつ少しずつ足をはやく動かしていく。最後にはもう走っていて、それでもちゃんと屯所に近づいていることがわかって大きく息を吸うと唇をかんだ。



「っはぁ、はぁ…」
震える足を持ち上げて私はやっと一歩足を中へ踏み入れた。それと同時に胸の奥がぎゅっと締め付けられて息がつまった。
桜はもう散っていて今は葉桜の緑が私の上に覆い被さっていた。
「椿…か?」
「あ…」
甘い声のなかに驚きを含んだものが聞こえて後ろをふりかえった。そこには予想通り原田さんがいて私はほっとした。多分、出る前となにも変わらない原田さんがいたからだ。
「原田さん、お久しぶりです…って、ちょ!」
「椿っ…」
ずんずんと歩いてきたかと思うと急に正面から抱きしめられて声をあげた。でも、ぐっと力をこめられた腕と切なげな程の声に私もゆっくり彼の背に手をまわしてぽんぽんとたたいた。
「原田さん、顔見せてくださいよ。久しぶりだからちゃんと見たいです」
「…おう」
案外呆気なく離れた原田さんの表情を見て私はまた驚いてしまった。目元は赤く、口は無理矢理笑うように口端を不自然にあげていていつもの色男はどこへやら、だ。
「情けない顔しちゃってますよ」
「分かってる」
あっさり肯定されるとなにも言えなくなるもので。口を引き結んだところでこちらも久しぶりの二つの頭が目に入った。
「お久しぶりです、平助さん、斉藤さん」
「お、やっぱ椿だ!久しぶりだな!」
「ご苦労だったな」
「ありがとうございます。あの、土方さんいらっしゃいますか?報告を…」
「土方さんならもうすぐここ通るんじゃねぇ?さっき見かけたし」
そうですか、と相づちをつきながらちらりと原田さんをみると先程のことが嘘のようにいつも通りに笑っていたので私もほっとして笑みを浮かべた。