「東條、」
「はい、今書いています」
和紙もこの筆を走らせることもすっかり慣れた。それはやはり土方さんへの文…というより報告書で先程手に入れたばかりの情報、古高という男のことをかいている。
座敷に長州なまりの男がいたから警戒していたら酒の勢いでぽろっとこぼしてくれた。古高という男のところに武器を隠している、と。適当に当たり障りのない返事をして早々に座敷を出て文を書いていると山崎さんが来た。
書き終えた文を山崎さんに渡すとおつかれさん、と私の頭を撫でて外へ飛び出していった。
山崎さんの姿が見えなくなるとどっと疲れが押し寄せてきて肺から空気を全部吐き出した。私のではない煙管のにおいに吐き気がして口を押さえた。
このにおいにも慣れたはずなのに…。
酒を口に含むと喉に通して吐き気ごと飲み込んだ。



しばらくすると屋根裏が開いて山崎さんが顔をのぞかせた。
「お疲れ様です」
「おつかれさん、それよりはようここから出るで」
「え?」
「自分はよう働いてくれたわ。もう屯所に戻ってええ」
「戻る…山崎さんは、」
「俺も一緒に戻りたいところやけど同時に抜けたら怪しまれるやろ。俺はもう少し残る。それにどうせこのあとも仕事が入っとるでな」
「でも、」
「副長命令や。従わんかったら切腹やで?」
「っ…」
そうだ、私はもう新選組の隊士、監察方だ。
「分かりました。…どこか抜けられるところはありますか?」
「裏口の方が寝とる見張り一人や。自分なら余裕で行けるやろ。ほれ、袴持ってきたで」
「ありがとうございます!では、お先に失礼しますね」
「おう、久しぶりの屯所でゆっくり休みぃや」
こくんと頷くと山崎さんはにっと笑って戻っていった。
私は素早く袴に着替えると重ったらしい着物をしっかりと畳んで部屋の真ん中に置くと廊下に出た。一度だけふりかえると部屋にむかって頭を下げる。
居心地は全然いいとは言えなかったけど、ここはどうしても私の居場所だったところだから。ここにいられたおかげで私は新選組の役に立てたのだから。