私がいた場所。

遊女として動き出せるときがきた。"水揚げ"だ。
思ったよりは緊張してない。なんでだろう、相手が彼だからだろうか。
禿が襖の向こうから声をかけてくれて私は重い着物を持ち上げた。
暗い廊下を小さな灯りが点している。
禿の足が止まってそこの襖を開ける。
「おばんどすえ。お初にお目にかかります、菖蒲いいますえ」
襖を閉められてから目の前の男を見てよろしゅう…と続けるまえに唇を奪われた。
「っんん…ふぁ……ん、沖田、さん?」
「何がお初に…だよ、ていうか色っぽすぎ」
「…だからって早急すぎですよ、たまってるんですか」
「まあね、今日のことずっと待ってたから」
「物好きですね。こんな年増を」
「そんな風に見えないしね。むしろ綺麗で、色っぽくて…すごく好みだよ」
「口が上手ですね、んっ、ちょっと…ほんとに…っ」
「憎まれ口より君のかわいい声、聞かせてよ。おしゃべりはそのあとでもいいでしょ」
「でもっ…ぁ…」
するりと簡単に帯を解かれてできた隙間から手がさしこまれる。ひんやりとした大きな手がゆっくり肌を這う感覚にぞくりとする。
目が合うと小さく口端をつり上げてまたそれを重ねた。
「……つばき」
耳元で聞こえたそれははじめての音で甘く甘く脳に溶けていった。