「菖蒲はん、よろしゅうどすか?」
「…へえ」
ここはきらびやかな、それでいてどろどろとした男女の交わる世界。居心地はとてもいいとはいえないところだけど、そこで私にできることがあると言ってくれるのなら私はまだここにいられる。
重くて引きずってしまうほどの着物にもずいぶんなれた気がする。それよりも重く感じてしまう腰を持ち上げて敷居をまたいだ。
さぁ、今日も御兄様方の情報を聞き出しましょうか。








「っはあぁ……つかれた」
襖をしっかりと閉めてから畳の上に倒れ込む。障子越しに外の灯りが入ってくるからそこまで暗くもない部屋で小さな机においてある文をひらいた。
この達筆具合は土方さんだ。
ふうっとため息をついて読み終わった文を再び机の上に置いた。
私がこの角屋にきて毎日のように見てきた字だ。いい加減わかるようになってきた。他にも平助さんや原田さんの字もわかるようになった。
桜が散り終わる少し前に私は掴みかねている情報を探るため島原へきた。身のこなしから芸まで教わってやっと少しずつお手伝い程度に座敷に出してもらえるようになった。
同じくらいに若い衆としてはいった山崎さんもせっせと働いているようで。若い衆とは島原や吉原といった遊郭でも必要となってくる男手のことだ。何事も女だけや男だけではうまくいかないものである。
「おつかれさんやなぁ」
「山崎さん…普通に襖の方から入ってきてくださいよ」
すとんっと屋根裏から降りてきた山崎さんに呆れ顔をして身を起こし、蝋燭に火をつけてまわりを照らした。
「そんなことゆうて若い衆と遊女ができとるなんて噂がたってもうたらどないすんねん。あんま他のやつらに仲ようしとるところは見られん方がええやろ?」
「…そうですね」
考えてみればそうだ。誰かに見られて怪しまれても面倒である。疲れすぎてそこまで頭がまわってくれないようだ。