「お水持ってきましょうか?」
「いや、いい…」
少し落ち着いたのか顔をあげた土方さんを見てどきりとした。
酒のせいとはいえいつもとは違いすぎている。上気して赤らんでいる頬に吐き気のせいだろううすい涙の膜をはった目、悩ましげに寄せられた眉に色気を感じないでいられる人などこの世にいるのだろうか。
思わずじっと見詰めてしまっていたのに気づいたのかまた視線が絡んだ。そして流れるような動作で私の頬を大きな手が添えられたところではっとして目の前の胸板を押し返した。
「い、嫌です!」
「あ"?」
「…だって嘔吐物口移しとかになりそうですし、」
「おまっ…気持ちわりぃこと言うなよ!」
いつまた吐き気に襲われそうになるかわからないから油断はできない。したらどうせ深くなるんだろうから、息苦しくなって…とかありそうだし。
「私は土方さんのじゃないんですから私で欲を満たそうとしないでください」
「じゃあ俺のになればいいだろ」
「お酒の入った言葉は受け取れません」
全く、と土方さんを見れば目はすわったままでむすっと口を引き結んでいた。
「女には困らねぇくらいの顔をしてるつもりなんだが?」
「ですから、お酒の入った言葉は受け取れませんって。それに私は顔だけで人を判断しているつもりないですから」
少しの間沈黙が続いたと思ったら土方さんがふっと笑った。
「…お前はそういう奴だったな」
「はい?」
「なんでもねぇよ、戻るぞ」
「体調は…」
「……水」
「はーい」
くすっと笑って私は水を取りに行った。
もう日は沈んでいて暗いけれど夜桜というのもいいものだ。