もしこの時代に来たとき新選組に捕まらなかったら、それより前にどこかの一般人に拾われていたら今ごろ私はこんな風に町を歩くこともあったのだろうか。この時代で普通に恋愛をして身分違いとかに悩んで、でもきっと誰かと結婚して…それはそれで幸せだったのかもしれない、なんて。
「永倉さん」
「ん?」
「私、新選組のみんなのこと大好きです」
「…おう」
「だから、新選組のためになにかできるように頑張ります」
私がぐっと永倉さんの手を握ると、彼の私の手を握る力も強くなる。なにも言われなくても、それだけで私には十分で少しずつ沈みかけている日を見た。赤く、橙のその色はすごく優しいものに見えて私は目を細めた。
「なぁ、」
家へと帰っていく子供たちを見ていると後ろから声をかけられてぎくりとする。この声は山崎さんだ。
足を止めて振り返った永倉さんの後ろに隠れるようにして俯く。こばれませんように…。ばれたら多分逃げ切るのは無理だ。この着物でははやく走れない。
「やっぱり永倉さんでしたか、後ろ姿がそうやなぁ思うて。で、その方は?」
「今日は非番だったから久しぶりにこいつと町でも歩こうかと思ってな」
俺の女だよ、と最後に告げた永倉さんは山崎さんの方を向いているから表情は見えないけど、その分何故か恥ずかしくてもっと下を向いてしまう。
へぇ、と山崎さんが微妙な返事をしてのぞきこんでくる。このまま永倉さんに任せてばかりではいけないとうつむいたまま声を出す。ばれるからとかではなく顔が赤いからです。
「えっと…なにか?」
少し高めの、例えるなら電話に出るときの声を出してたずねると山崎さんを前髪越しに見上げる。
「いやぁ、可愛らしい恋人がおって羨ましいわ永倉さん。やりますなぁ!」
一瞬あの糸目が開いたような気がしたけど…気のせいだろうか。
「照れ屋な奴だからあんま顔は見してくんねぇけどそこもかわいいからなこいつは」
なんでそんなに照れるようなことを言うのですか。もうすでにこれが罰のような気がしてくる。
とにかく山崎さんと離れないことには私の心臓がうるさいままなので、どうにかして離れようと永倉さんの袖をくいっとひっぱる。
「ん?あぁ悪い、もう暗くなるしこいつ送ってくるな」
「あぁ、そうですねぇ、夜道に女性一人なんて永倉さんも心配でしょうがないでしょうなぁ」
「まぁな、じゃまたあとでな」
「へぇ」