なんて考えてた私が馬鹿だった!!
足だけでは逃げ切れないと思って色の違う着物も持ってはじめは茶屋にいた。もちもん屯所とはできるだけ離れたところにある茶屋だし、流石にはじめから一軒ずつ中に入ってくることはないと思っていたから。でも、そんな私の考えが読まれたのか、それともあの人の鼻が犬並みにきくのかすぐに見つかってしまった。万が一に備えて店主に断っておいた通り裏口から逃がしてもらって一応撒いたけど、また一ヶ所に留まるとすぐに見つかって、の繰り返し。その間に着物も変えたりしたのになぜかすぐに見つかってしまう。
今度は中に入らず茶屋のすぐ脇に息を潜めて回りの音に気を配っていると、そう間もなく山崎さんの声が聞こえてくる。下手に動かず奥に入ったまま身を潜ませて聞き耳をたてる。
「なぁ、そこのお嬢さん」
「はい?」
「ここらへんで女みたいな顔した男見いひんかった?」
…なるほど。確かに女顔だけど袴だから男と聞けば見つかりやすいだろう。それに茶屋なら急いでる人よりもゆっくりと甘味やお茶を楽しんでいる人が多いから近くを通った人の顔も覚えやすくあちらからしたら情報も手に入れやすいのだろう。だから茶屋に入るとすぐに見つかってたのか。
山崎さんに話しかけられていた女の人は申し訳なさそうにしながらわからないと告げた。すると山崎さんもお礼を言って離れていった。
ありがとう、見ず知らずのお姉さん。
小さくガッツポーズして私もまた動き出す。一ヶ所に留まると山崎さんに情報ガッツ伝わりやすくなってまずい。それにあの人は気さくな感じの人だから大抵の人には話しかけられるだろう。だから一人でも私が留まっているところを見た人がいたら駄目なのだ。
それでもどこにいたら見つかりにくいんだろうと考えながら歩いていると不意に手を捕まれて心臓がとびはねた。
「えっ、」
「見っけた!」