「こんなもんで人は死ぬのかって。脆いよな、人の身体って。殺したやつがすげぇちっぽけに見えてそれで、それよりも、自分がもっとちっぽけに見えた」
「うん」
「どうしてその時は殺せたかって自分が死にたくなかったからなんだよ。無我夢中で刀振り回して…本当にこれでいいのかってずっと考えてた」
「ん…」
「でもなんかさ、お前とあってああ、俺はこういう危なっかしいやつを守るためにここにいるのかもしれないなんて思ってさ。ひでぇよな、人殺しをお前のせいにしてたんだ」
「そんなことない…」
「あったんだって。お前が剣術始めて強くなってきたのを見て嬉しい反面、どっか心臓の奥が痛かったよ。どうしてもお前を守る立場でいたいと思ってたから。
お前のことが多分、好きだったから」
ぽろっと涙が落ちるのを感じた。
どうしてなのかはわからないけど、胸が一杯になってどんどんこぼれていく涙をひとまわり大きな手で拭われた。
「なんで泣くんだよ」
「わか…ないけど、なんか」
苦笑いしてる平助さんが視界一杯に広がって唇に暖かいものがあたった。涙が流れていたからしょっぱかった。
「別に付き合いたいとかは思ってないんだ。俺にはお前の未来まで任せられる器量も度胸もねぇしな」
「平助さん…」
「お前が俺のことをあんまりそういう目で見てないこともわかってたし。でももう少しだけ、お前のこと見てていいか?もう少しだけ、俺のことも男として見といてくれないか?」
これ以上涙がこぼれないように奥歯をかみしめてこくんと頷いた。くしゃくしゃと空いている手で髪をなでられてかと思うと、平助さんはにっと笑った。
「俺はそれで満足だ」
ふわりと白いものが舞い降りてくる。
だんだんと私たちのまわりを降りてくるそれは冷たくて儚いけれど、綺麗なもので。
「…雪」
「ほんとうに降ったな…」
二人で顔を見合わせると笑った。
広間の近くまで走ると二人で寝坊助な幹部の人たちに向かって声をあげた。
もちろん手はつないだままで。
「みなさん、雪!ふってきましたよー!」
「起きろよ!新八、佐之さん!飯食って雪合戦だ!!」