掃除が終わってからも私は大忙しだ。
皆が酒を飲んで騒いでいるから片付けつつお酒を持ってくるという広間と勝手場の往復。一段落ついたころにはもうへとへとになっていて広間の隅っこで倒れこんでいると土方さんが隣に腰を下ろした。
「大丈夫か?」
「はい…土方さんは飲まないんですか?」
酔ってはいない様子の土方さんにそう問えば少しだけ眉に皺が寄った。
ああ、そっか、土方さんって下戸だった。
「お前は飲まねぇのか?」
「私はちょっと自粛してるんです。年を越したら飲もうかなって思ってます」
「自粛?」
「この前飲みすぎてやらかしたので」
「…聞かねぇでおいてやる」
「ありがとうございます」
ほんとにこの間のことだからなんとなく自粛してる。別にいいんだけど気持ち的にね。死んだような目をしていたであろう私の表情から読み取ってくれたのか深くはきかないでくれた。
ぼーっとみんなのほうを向くと原田さんが上半身裸になって腹の傷を見せていた。あれが噂の切腹の跡、刀の味を知る腹ですか。…よく生きてたなぁ、まだ医療の発達していないこの時代で。
「もうすぐ年明けか」
「そうですね…なんだか早かったです」
この時代にきたのがこの間のように思い出せる。はじめはみんな怖くてよく泣いちゃってたっけ。着物やら甘味やらをたくさん買ってもらったり、土方さんに襲われかけたり、水浴びしたり、島原いったり、剣術教えてもらったり、山南さんが怪我をしてしまったり、隊士として認めてもらったり、沖田さんにちゅーされたり、原田さんとやらかしてしまったり…。
なんか余計なこともたくさんあった気がするけどほんといろいろあったなぁ。全部が思い出として私の心の一部を占領している。苦しいこともあったけど楽しかった。来年のいまごろは…どうなっているんだろう。
そう考えようとしてやめた。私は今、この時代に生きてるんだから。未来の人として見るのはやめよう。
ここのみんなと…
「考えすぎんなよ」
「っ…土方さん?」
肩を寄せられて近くなった綺麗な顔を見上げた。私ではなくみんなのほうを見るその目は優しくて相変わらずぎらぎらしてて芯がある。
「お前はもう、新選組の一人で、俺たちの仲間だ」
一瞬息が止まって視界がぼやけた。それを見せないようにまぶたを下ろしてしっかりと頷いた。