「そういえば土方さん、監察方を紹介してくれるっていってたけど…」
自室に戻ってまかせられていた繕い物をしているけれどどこか落ち着かない。雑用から隊士になったからとかじゃなくて、なんかこう…誰かに見られているかのような…。
「…。」
あ、天井裏にいる人と目があった。
とりあえず目はそらしたけどなんだろうあの人。怪しい人…?
「よいしょ」
「降りてきたっ!?」
天井板を少しずらして降りてきた人は黒装束の男で口元も布で覆われていて見えるのは細目の目元だけだ。
「だ、誰ですか…?」
…しまった。すごく馬鹿なことをきいてしまった。どうみたって怪しい人じゃないか。ほらこの人もきょとんとした顔(多分)してる!
「誰って、自分土方さんからきいとらへんの?」
「え、土方さん?」
おん、と頷いた男を見て土方さんとの会話を思い出す。
「も、もしかして監察方の方ですか?」
「ご名答!正解や。で、自分、名前は?」
「東條椿です」
「東條な。外で情報集めるときは偽名使っといたほうがええで。あ、俺は山崎烝、これは偽名やないで?」
いろんな方言が混ざったような口調でへらへらと笑う男の名をきいて口端がひきつるのを感じた。
この人が山崎烝…!?たしか真面目で有能だったからすぐに昇格したっていうひとだよね。監察方っていうのも知ってたけど、この…へらへらした人が、かぁ…。
「山崎さんよろしくお願いします。監察方には島田さんもいらっしゃいますよね」
「そやそや。基本的には俺と島田くんとでやってんねんけどな、確かに女手も欲しかったんや」
いつも笑っているかのような山崎さんの細目が少し開いて奥の鋭さを纏った瞳が見えた。背筋がぞくっとしてああ、この人もこの時代の人なんだと思った。