「隊士としているわけでもないようでしたし、軽い気持ちでここにいるのだと思っていたからあの時貴方の涙を見て驚いたんです。こんなにも山南さんのために悲しんでくれるのかと、武士としての山南さんを惜しんでくれるのかと。隊士達の中には悲しむ人もいましたし悔しそうにしている人もいました。でも涙を流す程にあの方のこれからを想った人はいなかったのです」
「それは…皆さんが武士だからですよ。涙を見せないように我慢していたのではないですか?」
「そういう人もいるのかもしれません。ですが、少なくとも俺は気持ちが高ぶるのを感じましたし失礼なことをしていたと自分を恥じました」
「私はそんな風にいってもらえるような人ではありませんよ」
「俺は言いたかったのです。それに貴方は涙だけではなかった。俺はあの日から毎日ここで竹刀を振るあなたを目にしてきました。隊務が重なりなかなかいけなかったのですが、今日はこれてよかったです。こんな風に貴方と話すこともできましたし」
額に浮かんでいた汗を袖で拭った彼は好青年だ。
「ありがとうございます。私もお話できてよかったです」
本当にそんな風にいってもらえるような人ではないのに。だって私は、山南さんを見殺しにしたと同じことをしたんだから。優しさが痛い。この時代に来たとき私の記憶も全て無くなってしまえばよかったのに。
また一緒にやりましょうと言って去った行った彼が私の立場だったらどうしたのだろう。未来をかえてでも山南さんを大坂に行かせなかっただろうか。…自分が消えるかもしれないのに?
「…結局はエゴなだけだ」
ひらりと舞った葉は伸ばした足の上におりてきた。