「東條さん!」
「はい?」
あの日から日課になった素振りを中庭でしているとあまり聞いたことのない声が聞こえた。走ってきたのは多分平隊士の方で手には私と同じ竹刀があった。
「ご一緒してもいいですか?」
にっこり笑って差し出された言葉に私も笑い返した。
「もちろん、いいですよ」




何百回かやって少し休憩にした。
木陰に座って二人で話す。幹部の人たちとはよく話すけれど平隊士の方とはあまりないからなんだかどきどきしてしまう。私は厄介者だし、そのくせ幹部の人たちに可愛がられてる…とか思われてるんじゃないのかな?
「あの、どうして一緒にやろうとしてくれたんですか?」
「…俺、藤堂さんに伝令をした者だったんですが、覚えていますか?」
「えっ…?あ、すみません!あの時はちょっと混乱してたので、」
「いえ、いいですよ。俺はそのとき泣いているあなたを見て驚いたんです」
「驚いた…?」
「はい」
それまで風に揺れる木の影を見ていたのを隣の男に視線をうつした。
少し眉を下げながら男はまた口を開く。
「すごく失礼だとは思うんですが、俺はあなたのことをよくは思っていませんでした。幹部の皆さんから可愛がられていましたし、たぶん嫉妬していたんだと思います。俺たちみたいに毎日の仕事や稽古もないのに、と」
あぁ、やっぱりなぁ…と思った。
そう思われても仕方のないことだと思うし、それを否定して本当のことを話すのも何か違う気がしていた。そりゃあ傷つかないかときかれたらそんなことはないけれど、全てが自分の思い通りにいくなんてことどの時代でもあるはずないんだもの。