私がいた場所。

打つ度はやく荒くなる私の竹刀の筋に平助さんは何を思ったのか竹刀を両手に持ちかえて絶え間なく動いている私の竹刀を弾き飛ばした。
しびれる腕を自分で押さえ込んでその場に崩れ落ちる。酸欠になりそうなのを吸って吸って今度は逆に過呼吸になって。無理矢理咳き込むことで酸素を体外に出す。
背中をさすってくれる平助さんの手も、心配そうな声も、温かい。その温かさが私には痛くて苦しくて息が詰まってしまう。
「げほっ…っ…」
「大丈夫か?」
「は、い…」
「どうしたんだよ、急に。なんかおかしいぞ?」
その時廊下から誰かの走ってくる音が聞こえてきて顔をのぞかせたのは平隊士の方だった。
「藤堂さん!山南総長が…大坂で怪我を負ったようです。命に別状はないが動かすことは難しい、とのことです」
「なんだって!?くそっ…土方さんなにやってんだよ!…伝令ごくろうさん、いっていいぞ」
「はい」
足音が遠ざかっていくのを感じながら上からふってきたため息に見上げた。
「平助、さん…山南さんが…!」
「ああ…。もしかしてお前、勝手場に行くときにこれをきいたから…」
「っ…」
事実は耳の中に残って響いている。
ぽろぽろとこぼれる涙はゆっくりと袴ににじんでしみをつくる。口元を手の甲で覆って漏れそうな嗚咽を塞ぎこむ。
「お前、山南さんと仲良くしてたしな…」
ふわっ…と温かさに包まれた気がして顔をあげると私は平助さんの腕の中にいた。引き締まった筋肉で固い胸板にがっしりとした腕、長い髪は首筋をかすめていてくすぐったい。
「泣いてもいいよ、今は俺しかいねぇ。泣いて、泣いたらまたやるぞ。すっげぇ強くなって山南さんにも土方さんにも見せてやろうぜ」
優しい平助さんの声に何回も頷いておでこを肩口におしつけた。
平助さんの腕の中は温かくて安心する、まるでお日様に包まれているかのようで、私は泣きつかれてしまうまで広い背に手をまわしていた。