ふらりと帰ってきた原田さんはどこかすっきりしたような顔をしていて私はもう口元が引きつらないようにすることだけに必死だった。
帰路につく頃には平助さんと永倉さんは完璧にできあがっていて大声で笑いながら先に進んでいく。私はゆっくりと顔をあわせないように原田さんの隣を歩いていた。
「椿、」
「はい」
「お前、のぞいてたろ」
急に核心をつくような原田さんの言葉に驚いて思わず見ないようにしていた彼の顔を見る。
原田さんは口元をつり上げてへらへらと笑っている。…流石は新選組幹部、気配には聡いんですね。
「…のぞいてはいませんよ。出くわしてしまっただけです。声が聞こえたのも不可抗力です」
胸の内では物凄い悪態をつきながらできるだけ淡々とかえすとくくっと笑われる。
「屯所でもお前が相手してくれるならわざわざ島原いかなくてもいいのにな?」
「原田さんを見る目が変わりました」
「あ、おい!冗談だってェの!」
歩調をはやめた私の手をつかむと原田さんはにっこり笑った。
「でもよ、あの中のどいつよりも俺はお前が一番だと思ったぜ?」
この人にはまってしまうのは泥沼に沈んでいくことと同じなのではないかと思った。