「佐之、平助なにやってんだー…って佐之と椿びしょぬれじゃねぇか」
「あはは…」
「水浴びでもしていたのか」
いつのまにか永倉さんと斉藤さんも巡察から戻ってきたみたいで水を被った後なことに眉を下げながらおかえりなさいという。二人は一度顔を見合わせてから笑ってただいま、とこたえてくれた。
「二人もどうですか?かけてあげますよ?」
「とかいいながらもうかけてんじゃねぇか!」
「っ…総司やめろ、着物がぬれる」
「うわっ、俺もかよ!」
杓を持ったままだった沖田さんが今度は三人にも水をかけ始めたからもう大騒ぎ。みんな口調は怒ってるけど見えるのはやっぱり笑顔で、楽しそうだ。
こちらにも水がとんでくるがもう一度水を被った身としてはどうにでもなれという感じだ。
張り付いた前髪を払って水気を含んだ髪紐をとるとぺしゃんと重力に従って高めに結っていた髪が落ちた。手拭い持ってこないとなぁと思いながら髪を絞って水分をおとす。
「…え、なんですか」
一瞬騒いでいたみんなの視線が集まった気がして見渡すと沖田さんが杓を置いて目の前まで近づいた。
「な、なんですか?」
「君、今すっごく女になってる」
ぬれた髪を一房持たれてだけ身じろいだ。沖田さんに言われた言葉の意味は頭の中で反復されてから理解して、それと同時に頬が熱くなった。
「てめぇら、うるせぇぞ!!何してやがる!」
急に聞こえた怒鳴り声にびくっと肩をはねさせて振り返るとそこには鬼のような形相の土方さんがいた。でも、何故か私を見て驚いた顔をしたため、絶対睨まれると思っていたから拍子抜けだ。
「あ、ああ…お前東條か」
「なんだ?土方さん今こいつがわかんなかったのか?」
「今は完璧女の顔してますからね。今来た土方さんは驚いたんじゃないですか?」
「なってないですって」
にやにや笑っている沖田さんに反論しながら土方さんの方を見るといつもとは違うぼんやりとした目線が送られて、やっぱり拍子抜けだ。
「土方さんも実は水浴びしたいんじゃねぇの?」
「あ、なるほど、水かけましょうか?」
「いらねぇよ!!」
平助さんと沖田さんの言葉に土方さんがまた怒鳴って視線はまたそちらに集まる。その間に私は原田さんから貰ったばかりの扇子を懐から出してなかなか下がらない熱を下げるように扇いだ。