「そうだね、俺には関係ないよ君の恋路なんて。まぁ、幹部の誰かとそうなったら祝ったりするのかななんて考えたりしたけど」
「っだから…」
「でもね、どうしてだろう。考えてたらすごく苛々してきてさぁ…これって君のことがそれくらい嫌いだからなのかな?」
ぎしっと音をたてて座り込んでいる私の前にしゃがみこむと目線をあわせた。
泣きたくないのに涙が勝手に出てくる。それでも目元から溢さないように歯を食いしばるのも必死に見返すのも自尊心のせいだ。
ぽたりと雫が落ちてもただじっと見返していた私の視界にはいったのは色白なのに大きくてごつごつした男の人の手と、困ったような沖田さんの顔だった。
「それともさ、こんなに気になっちゃうくらい君のことが好きになってるからなのかなぁ?」
見開いた私の目からもう一粒流れた雫は沖田さんの手で拭いとられた。
「え、と…沖田、さん?」
濡羽色の瞳はまるで私の目よりももっと奥のなにか別のものを見ているようで。このまま目をあわせていると吸い込まれてしまいそうなのに、そらすこともできなくて操られてしまっているみたい。
「…っふふ。そんな熱っぽい目で見つめられたら襲いたくなるんだけど」
「っ…か、からかわないでください!」
笑い声をたてる沖田さんからやっと目を離して息をつく。ぺしっと人差し指で額を弾かれて何をするんだという目を向けると、沖田さんはなんとも意地悪なそして嬉しそうな笑顔を浮かべて立ち上がった。
「さ、そろそろ報告書をかきおわった新八さんが来る頃だよ」
ああ、捕り物があったこら遅れていたのかと納得しながら上がりきっていた熱を下げるよう深呼吸した。
「だから沖田さんが来てくださっていたんですね」
「そうだよ、でも来てみたら新八さんを探してきょろきょろしてる君がいたから、つい、ね?」
ね?って…ちょっかいをかけられた理由は結局のところ暇潰しだったというわけか。
「あ、新八さん来たみたいだし、俺は行くよ」
「…はぁ」
「さっきの、冗談じゃないからね?」
にんまりと笑った沖田さんはすぐに襖の向こうに消えて入れ替わるように入ってきたのは待ちに待っていた永倉さんだった。
「わりぃな、遅くなって。総司になにもされなかったか…って顔赤いぞ?」
「っ~!」
悪戯好きな彼の言葉に翻弄されているのもまた事実。