「永倉さん、遅いなぁ…」
監視の入れ替わりの時はたまに誰もいなくなるときがある。次の人が遅れてたりとか、前の人が用事で早く行かなければならないとき。
それにしても遅いなあと思って部屋の外に出てきょろきょろとしてみる。話をしたいと思っているからだろうか、いつもより余計にそわそわしてしまう。
「何してるの」
「っわ…お、沖田さん」
早く来てくれないかなぁと息をついているとそこに影が落ちてふりかえると沖田さんが私を見下ろしていた。
「新八さんならまだ来ないよ」
「そう、なんですか…」
がっくりと肩を落としてそそくさと部屋にひっこむ。沖田さんのすぐ近くにいるっていうのは、その、こわいし。襖まで閉めちゃうと感じ悪いと思って開けたままだけどじっと見てくる沖田さんの視線が痛い。
誰かと一緒ならいいんだけど、二人っきりになるのは未だに怖かったりする。悪戯を思い付いた時のような笑顔の中に時折見える冷えきった鋭い氷のような目。ぞくりと背筋が凍ってしまうよう癖はもうどうしようもないのだろうか。
「なに、もしかして新八さんが君のいい人なの?」
「いい人…?」
「好きなの?ってこと」
「違いますよ、そういうのじゃないです」
「ふーん、じゃあ山南さん?さっき随分と楽しそうに話してたじゃない。俺より絶対あの人の方が恐いと思うけどなぁ」
「いい人なんて、いませんよ」
少し汗ばんだ手で袴をにぎったまま少し食いぎみに返した答えに驚いたのか沈黙が続く。だって、そんな浮わついた気持ちがあるなんて思われたくなかったし、もしそういう気持ちがあったとしてもからかわれるのは嫌だった。この時代に来てから誰かを好きになるなんていう余裕はなかった。もちろん、新選組が好きというのは変わることなかったけど。
「それに、沖田さんには関係ないじゃないですかっ…」
「…」
口にしてしまってからする後悔というものは多い。はっとして沖田さんを見るとまるで蔑むかのような目で見下ろされていて私の体は正直にびくっと震えた。