「ありがとうございます。すごく、嬉しいです。あ、そうだ、これ三人で頂きませんか?」
「お、いいのか?」
「悪くないな」
「んじゃ、俺が茶入れてくるよ」
空になっていた湯飲みを取り上げられてそれに慌てると平助さんに笑われた。
「もうっ…ありがとう、平助さん」
「おう、ちょっと待ってろ」
廊下に出た平助さんを見送ると部屋には私と斉藤さんの二人だ。二人だなんて違う意味で心拍数が上がる。あの時の刀の冷たさが体を包むからだ。斉藤さんをのぞきみるとやはり目があってしまうもので。
でも今回は先程とは違い斉藤さんが先に口を開いた。
「平助と、打ち解けていたな」
「あ、はい、先程少し話をしていて」
「そうか」
「…っと、あの、団子、私なんかのためにありがとうございます。でもよくわかりましたね、食事とか睡眠とか」
「…何度か嘔吐しているところを見かけた。それにうっすらだが隈ができている」
目元に指を滑らされる。
背の後ろで自分の手をぐっと爪がくいこむくらい手を握る。少しいたいけれどかまわない。そうしないと涙が出そうだったんだから。どうしてそんなに優しくしてくれるの。あんなに、刀のように冷たかった目は今はどこにもない。
「今朝の朝餉のとき、気づいたのだがな。…それに」
「それに?」
「飯を分けてくれるやつはいいやつだと、俺は思った」
「…」
ぽかんとして瞬きを繰り返す。
数秒たってから思わず吹き出すと彼はむっとした顔で私を見た。
「何がおかしい」
「い、いえ…喜んでもらえていたならよかったです…っふふ」
彼のみけんの皺がこくなったところで平助さんが入ってきて私はそそくさとそちらに逃げ込む。
「平助さんありがとうございます」
「いや、いいけど…一くんどうしたの?」
「何でもない」
ふーんと返す平助さんを横目にもう一度くすりと笑うと睨まれたのであわてて居住まいを正す。
「とても美味しいですね」
「お前、ほんとに美味そうに食うのな」
「そんなに好きなのか」
「はい、甘いものはすごく」
「そうか…それはよかった」
ふわりと笑った斉藤さんはなんていうか綺麗で見惚れてしまいそうだった。なんだか女として負けてる気がするなぁなんてぼんやり考えながらかじった団子はひどく甘く感じた。