「あの、なにか…」
「あのさ、敬語、やめていいぜ」
「え?」
「俺あんま堅苦しいのは苦手でさ。お前も肩こるだろ。年もそんな離れてないだろうしよ」
「い、いえ、ですが」
「俺が苦手なの、つーかいつまでそうやって殻に閉じこもってるつもりだよ」
「それは…」
「まぁ、いい顔するやつらばっかじゃねぇけどよ、少なくとも俺は認めてんだよ。幹部が認めてんのになにか不満あるのか?」
「分かっ…たよ。ありがとう、藤堂さん」
「あ、それもだな。藤堂って呼ばれなれてねぇから平助でいいよ」
藤堂さんってあんまり自分の名字好きじゃなかったんだっけ。たしか伊勢津藩主と同じで…。
「じゃあ、平助さん、でいい?」
「ああ、俺もお前のこと椿ってよんでいいか?」
「うん、もちろん」
平助さんは嬉しそうにわらうとぐいっと湯飲みを傾けた。私もつられるように湯飲みに口をつけたとき再び襖越しに声が聞こえてくる。
「東條、入ってもいいか」
「斉藤さん…?いいですよ」
平助さんと顔を見合わせて首をかしげると襖が開いて暗い色の着物が現れる。
「失礼する…平助もいたのか」
「ああ、外だとちょっと寒かったからな」
「確かに肌寒いな。三月だから仕方がないが」
「で、一くんはどうしてここに?監視は俺がやってるし」
゙ 監視゙という言葉にちくりと胸がいたんだが、そんなことを気にしていてはこれからやっていけないと自分を叱咤する。
ああ、と頷いた斉藤さんは手に持っていた包みを私に差し出した。
「これは…?」
斉藤さんが無言で包みを広げるとそこから甘く香った。
「これって団子、ですか?」
「ああ」
「って何で急にそんなの買ってきたんだ?一くん」
平助さんの問に斉藤さんは私に向き直った。じっと見つめられて思わず息を止める。
「お前、食事も睡眠も十分にはとれていないだろう」
「っ!」
いきなり核心を突かれてかるく目を見開く。
確かに食事は進んで摂ってないし、食べてもすぐに吐いてしまっていた。睡眠は安心して寝れるはずもなくて平常より幾分か早い心臓の音をききながら過ごした夜はいったい何度あっただろう。
「へぇ…俺全然気がつかなかったなぁ。でもそれなら団子も食べれんのか?」
「おなごなら甘味を好むかと思ったのだ。…いらぬならいいが」
ふいっと顔をそらした斉藤さんの襟元から覗く首は少し赤くて私までつられてしまう。