いつもの巡察で通る道から少し離れたところにその甘味屋はあった。

「こんにちはー」
「いらっしゃーい…って東條さん!」
「あ、お鈴ちゃん、今日も頑張ってるねぇ」

化粧っ気はなくあどけなさの残るおなごがお茶を運ぶのが見えて声をかけるとどうやらそれはここの甘味屋の看板娘のお鈴だった。

「…東條、ここに来るのは初めてではないのか」
「えへへ…今日は誰かと来たい気分だったんです」

そう、実をいうとここにはすでに何回か来たことがあってお鈴ちゃんには顔を覚えられてしまった。

「東條さんがお連れさんと一緒なんて初めてだね!いつも通り団子と、お連れさんはなにがいい?」
「そうだな…この店のおすすめのものにしてくれ」
「はーい!」

お店の中に引っ込んでいったお鈴ちゃんを見届けてからふぅっと息をついた。

「お鈴ちゃんかわいくないですか?おすすめですよ」
「そんな話をしに来たのか」
「冗談ですって!」

じとっと睨んできた斎藤さんにあわてて否定を入れて笑いかける。
なにさ、ちょっとでれっとしてたくせに。

「一番話したかったことは伊東さんのことです」
「伊東さんか…お前はどう思う」

周りを少しだけ確かめてから声を抑え気味に話し始める。

「私は…あの人自体から悪意は感じられないんです。でも、なんていうかどこかに違和感があるような気がして」
「違和感?」
「はい、それが何かはまだわからないんですが…ひっかかってて」
「そうか。俺たち試衛館から一緒にいた近藤さん派と伊東派にはやはり壁があるな」
「元から私たちとは攘夷という点では意見があっていたものの佐幕派と勤王派ですもんね」
「それに加えて伊東派は伊東さんに心酔しているからな。伊東さんではなく近藤さんが局長であることに不満を持っている者もいそうだな」


元から合わなかった歯車を無理矢理にはめ込んで動かしてしまったかのように、今の新選組は少しずつ歪んできている気がする。