「わざと」
「…はい?」
廊下に出て空いたお皿やお銚子を下げていると急に後ろから大きな影がおちた。
「さっきのわざとだろ」
「…そうですけど」
はぁ、と大きくため息をついた原田さんをじとっと軽く睨むけど悪いのは私だ。有能な人材に失礼なことをしたのだから。それにきっと彼自身にも気づかれてた。
つらそうな山南さんの顔を見たくなかったなんてなんてだ他の自己満足でそのために伊東さんに失礼なことをするなんてただ近藤さんに迷惑をかけているだけだ。
「俺はさっきのこと悪いとはいってねェ」
「えっ…」
じっと見返してきた彼の目に私の顔が映り込んでいるのが見えた。
「俺らだって山南さんのあんな顔は見たくねェさ。けどそれで近藤さんに迷惑かけてたらいけねェだろ」
「…ですよね」
わかってる。わかってはいたけど…。
「それとお前にだけ負担が行くのもだめだ」
…それはどういうことだろうか。
話がよく読めなくて首を傾げる。
「あんなことして伊東さんに目ェつけられたらどうすんだ、お前。今回入隊してきた奴らなんて全員あいつの味方みてェなもんだぞ」
「は、はい…」
もっと怒られるかと思っていたのにただ心配されただけだった。正直拍子抜けだ。でも原田さんの目が真剣でそこまで私のことを考えてくれたって思うとうれしくてふふっと笑った。
「おま、なんで笑ってるんだよ!」
「や、すごくうれしくて…ふふ、ありがとうございます。原田さんは本当に優しいですよね」
こらえきれなくて結局素直に笑った私の頭をぐしゃぐしゃとなでると原田さんはなんだかなァ…と額をおさえてた。
「椿と話してるとなんか力抜けるんだよなァ」
「え、なんですかそれ。なんか貶されてますか?」
「褒めてんだよ」
ふーんと疑うような視線を送っても全く相手にしてくれない彼は足早に自室に戻っていってしまったので、また片付けに専念することにした。