中庭の掃除をしていると見たことのない人が廊下を歩いているのが見えて自然と目が追った。
誰だろう、あの爽やか男性。顔も結構整っていて街を歩いていたら娘たちは見惚れるのではないだろうか。
じっと見ていると目が合ったのでぺこりと頭を下げる。

「何番隊の方だろうか」
「八番隊隊士、東條椿です」

八番隊というのは仮の隊。私の主な仕事は監察方だけどあんまり人には知られないように、といわれている。怪しい人物に顔がわれないようにだ。

「東條椿…綺麗な名だ」
「ありがとうございます。あの、あなたは…」
「僕は、」
「ここにおられましたか!」

色男が名乗ろうとしたときちょうど近藤さんが満面の笑みでこちらに来た。

「ああ、近藤さん、勝手に歩き回ってすまない」
「いやいや!ん?東條くんもいたのか!」

私は中庭、2人は廊下にいて目線が違うからか、それとも天然さからかやっと私に気付いた近藤さんは隣の彼を私に紹介してくれた。

「こちらは伊東甲子太郎さんだ」
「伊東甲子太郎だ、よろしく頼むよ東條くん」












元治元年十月伊東さんや他の新しい入隊希望者達の歓迎会が行われた。その他の入隊希望者というのも伊東さんの取り巻きみたいなものたちなのだが。

「いやぁ、伊東さんのような素晴らしい人が新選組にきてくださるとは!」
「褒めても何も出ないがなぁ…」

ははは、と笑う近藤さんに伊東さんも笑い返す。
私はもてなす側として土方さんに言われた通り伊東さんの近くについて酌をしたり料理をだしたり。なんでも伊東さんが私を指名したらしい。こないだの挨拶でそんなに気にいられたのだろうか。でもその割には別に話しかけられることもなく酌をしたときに軽くお礼を言われるくらい。
伊東さんは悪い人にはみえないし裏があるようにも思えないけど何を考えているのかはよくわからない気がする。

「鬼の副長で有名な土方君にあえたこともうれしいが」
「…」

にっこりと笑う伊東さんとは対照的に土方さんは無言のまま伊東さんをちらりと見ると軽く会釈をして目を離した。

「藤堂君はまだ江戸のようだし山南君にこれからいろいろ教えてもらわないとな」
「私が伊東さんに教えるなんてそんな…」
「謙遜しなさるな」
「…いえ、そういうわけでは」

山南さんの顔が曇ってお膳の下で腕をおさえるのがみえた。

「っ…」
「すみません、伊東さん」

土方さんが口を開く前に私はお銚子から酒を少しこぼして伊東さんに頭を下げた。

「濡れていないですか?」
「大丈夫だ、東條君は?」
「大丈夫です、すみませんでした」
「いや。わざとではないのだから」

笑って許してくれた彼にちくりと胸が痛んだ。