「失礼します」
あの後、原田さんは私に団子を渡すと出て行ってしまった。
私に買ってきたものだから好きに使ってくれとのことだそうで。
ありがたくそれを受け取りお茶を入れると私は土方さんの部屋に向かった。声をかけて襖を開けるとぴりぴりとした空気に包まれた気がした。

「椿か、どうした」
「お茶をお持ちしました」
「置いといてくれ」
「…」
「冗談だ。お前はそう言っても聞かねぇからな」
一瞬じっと見つめると私がいうことをきかないのはわかっていたみたいで土方さんは静かに筆をおいた。
そういえばちょうど一年くらい前にも同じようなことがあった気がする。あの時は近藤さんに頼まれたのもあって、少し無理矢理に休んでもらった気がする。
「もう一つ茶をいれてこい」
「え…と、冷めてました?」
「俺にひとりで飲ませるなんて素っ気ねぇことしねぇよな?」
「…すぐいれてきます」


一度部屋を出てすぐにお茶を入れるとまた土方さんの部屋に入る。仕事をしながら待っているかと思ったが彼にしてはめずらしくぼーっと外を眺めながらまっていたようだ。
「お待たせしました」
「そんなまってねぇよ」
気にすんな、といいながら団子を差し出してきたのでそのままぱくっと咥えた。
所謂、あーんというやつ。土方さんはまさかの状況にびっくりしたようで串から手を離した。
「んっ……危ないじゃないですか」
「いや、今のはお前のせいだろっ…」
少しにらまれたので笑ってごまかしたけれど、横髪の隙間から見え隠れする耳の上のあたりが少しばかり赤くなっているように見えたのは気のせいだろうか。

一本ずつ食べ終えて二人とももう一本目に手を付けると、ふと土方さんの視線がこちらに向いた。
「そういえば東條」
「なんですか?」
こくんと団子を飲み込んで首を傾げる。
「お前、総司の奴に言い寄られてるらしいな」
「むぐっ…!?!ごほっ……うぅ…」
「あいつが自分からいってきたぞ?自分のものにするつもりだから盗るなよって」
忙しいときだったから聞き流していたが、と付け加えられても私の心情は複雑だ。
あの人、そんなに子供っぽかったっけ…土方さんが絡むとそうだったかもしれない。
「で、どうするんだ?あいつのこと」
「なんで私の恋愛相談になってるんですか…」
「他の隊士達の男色はともかく弟みてぇなもんの総司とお前のこととなったら少しは気になるだろ」
「ちょ…男色の話は本当にやめてください」
「ん?…あぁ、悪い」
どこか合点がいったような表情の土方さんに頭の中で?が浮かんだ。
「赤羽の奴は知らねぇうちにぬけてたみたいだ。気付かなくて悪かったな」
え…なんですか。それってもうあの事を知ってるってことですよね。
「なんで土方さんにはすべて筒抜けになってるんですか」
「知らねぇよ」
複雑でしょうがない。知らぬ間に私の周りの恋慕事情がすべて知られていたのだから。
はぁ、と思わず出たため息で少しばかり幸せが逃げた気がする。お茶を飲みほした土方さんをそっと見ると相変わらずの色っぽさでまたため息が出そうになった。
「ま、後悔しないようにな」
空になった湯呑みを下げると頭をぽんぽんとたたかれて胸の奥がきゅんとした。

この人は私と沖田さんのことを応援しているのかしていないのかよくわからない。