「それにしても長州の奴らは何してるんでしょうか…」
「今日はもう日が暮れたからな。明日の早朝にでも仕掛けてくる気なんじゃないか?」
「明日…」
「疲れたのならば寝ておけ。いざという時力が出ないでは困る」
「斎藤さん…でもみんなも疲れているのに一人だけ休むなんて、」
「お前に体力に自信があり、寝なくても全力を出せるというのなら無理強いはしない。だが、お前が怪我をすると心配する者もいることを忘れるな」
その通りだというように原田さんと永倉さんも頷いたかと思うと後ろから声がした。
「お前に怪我なんてされたら総司や平助が煩くなる。少しでもいいから寝ておけ」
「土方さん!…えと、じゃあ少しだけ。みなさんありがとうございます」
軽く頭を下げると土方さんはふっと一瞬だけ笑ってまた近藤さん達のところに行ってしまった。
私にしか声をかけて行かなかったけど斎藤さん達に用はなかったのだろうか?
「土方さんも椿には甘ェよな…」
「それは俺も思う」
「えっ?そうですか?」
首を傾げてみるけど当の本人はいないし私にはよくわからない。
わからないけど土方さんって見てるとちゃんと隊士たちのことを考えていることはわかる。
今、私たちのところに来る前も他の隊士たちのところをまわって士気が下がりきってしまわないようにしていた。そうした何気ない気配りができるところもすごいと思うし、まわるだけでも隊士たちの士気が上がるという事実もすごい。それだけ新選組にとって大切な柱であるということだ。
「ん…」
一日歩き回っていたからか、寝てもいいという許可を得たからか急に眠気がやってきて目をこする。
すると横から手がぬっと伸びてきて私の頭を抱え込んだかと思うと原田さんの肩にぶつかった。
「さすがにこんな石だらけだと頭がいてェだろ。肩ならかしてやるぜ?」
「そこはひざまくらじゃないんですか?」
「それでもいいけどよ、寝転がると背中いてェぞ?」
「…それもそうですね。では、ありがたく」
「おォ」
こてんと再び原田さんにもたれかかれば頭をぽんぽんとされる。
子ども扱いされているようでなんともいえないが、優しいその手つきは私の眠気を余計に誘ったようだ。
まぶたが降りていくと同時に思考も黒く塗りつぶされていった。